和菓子の歴史
私たちが普段から慣れ親しんでいる甘い和菓子が普及するのは、江戸時代に入り、国内に砂糖が普及し始めてからです。中国やオランダといった海外を通して、当時貴重だった砂糖が長崎に輸入されるようになります。さらには、沖縄や鹿児島で黒砂糖、香川や徳島では和三盆の生産が始まり、国内でも砂糖が作られるようになります。それまでは、栗や柿などの果物か昆布や椎茸などの素朴な食材を菓子と呼んでいましたが、江戸時代になると現在につながる甘い和菓子が確立します。
また、江戸時代には和菓子のデザインが洗練され、銘も付けられるようになります。日本各地で様々な和菓子が作られるようになり、大福やかりんとう、飴なども広く流通し、今日の和菓子の基礎が作られました。
和菓子の種類について
和菓子の分類については様々な方法がありますが、例えば茶道の世界では、濃茶を飲む前に食べる主菓子(おもがし)と薄茶を飲む前に食べる干菓子(ひがし)に分けられます。主菓子は濃茶を飲む前に食べることにより、口のなかに甘さが残り、濃茶のほろ苦さと美味しさをより引き立ててくれます。一方、薄茶では水分量が少ない干菓子が提供されることが多く、1種類だけではなく2、3種類を同時に菓子器に盛って出されることも多いです。
以下、代表的な主菓子と干菓子を紹介します。主菓子には羊羹や練り切りなど比較的水分量の多いものを使用し、見た目も豪華で手の込んだものがたくさんあります。干菓子はスッキリとしたデザインで、穀物の粉や砂糖をそのまま固めたものが多いです。
主菓子
練り切り
白のこしあんをベースに、つなぎとなる求肥(白玉粉や餅粉に砂糖や水飴を加えたもの)を混ぜ合わせて作る和菓子です。その工程でよく練らないといけないことから「練り切り」の名称が付けられました。色粉で着色したり、へらで細工をほどこしたりして、桜やモミジなど四季折々の形をデザインしたものがたくさんあります。
薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)
薯蕷饅頭は、すりおろした薯蕷(ヤマトイモなど粘り気のある芋)をつなぎに、米粉や小麦粉などを混ぜて皮を作り、あんを包んで蒸し上げた和菓子です。お好み焼きに山芋を入れたらフワフワになるように、蒸すとふくらむ薯蕷の性質を利用したしっとりとした上品な触感が特徴です。
きんとん
きんとんは、あんを練り切りや求肥で包み、その周りにそぼろ状にしたあんこをつけたお菓子です。なめらかな口どけと上質な甘さ、そして美しい見た目が特徴的です。
干菓子
落雁(らくがん)
米粉などの穀粉に砂糖や水飴を加え、木型に入れて押し固めた和菓子です。材料を木型に入れた後に固めて打ち出す製法から「打ちもの」とも呼ばれます。
金平糖
戦国時代にカステラなどとともにポルトガルから持ち込まれた。カラフルな見た目から茶道のお菓子として利用されることもあり、振出(ふりだし)と呼ばれる中身を振って取り出す菓子器に入れて提供されます。
季節の代表的な和菓子
和菓子は、年中行事や季節感と密接な関係を持つものがたくさんあります。例えば、端午の節句に食べる柏餅やちまきは、日本人の文化と深い結びつきを持っています。また、桜やモミジに代表される四季の風物詩にデザインされた「練り切り」や「きんとん」も、その季節を代表する和菓子と言えます。季節の和菓子を食べることで、春夏秋冬の訪れを実感できる日本の文化は、とても豊かなものと言えるのではないでしょうか。
春の和菓子
鶯餅(うぐいすもち)
餡を求肥で包み、上から青大豆のきな粉をまぶした和菓子です。青大豆のきな粉は「うぐいすきな粉」とも呼ばれ、淡い緑がかった色とほんのりとした甘みが特徴です。春を告げる鳥である鶯に似せた形になっていることが多く、求肥の両端を少しとがらせ、くちばしと尾を表現したデザインになっています。
桜餅(さくらもち)
桜餅は、桜を連想させる淡いピンク色の餅の周りに、塩漬けした桜の葉をかぶせた和菓子です。関東と関西で作り方が異なっており、餡を小麦粉などの生地でクレープ状に巻いた関東風に対し、関西では道明寺粉(どうみょうじこ:もち米をつぶつぶの触感が残るように荒く引いたもの)で餡を包んだ、まんじゅう形の桜餅がよく食べられています。関東風を「長命寺(ちょうめいじ)」、関西風を「道明寺」と呼ぶこともあり、出身地によって馴染んだ形が異なる面白いお菓子になっています。
夏の和菓子
柏餅(かしわもち)
柏餅は、小豆やみそで作った餡を餅でくるみ、さらにその周りを柏の葉で覆ったお菓子です。端午の節句に柏餅が食べられる理由は、新芽が出ないと古い葉が落ちない特徴から、子孫繁栄に結び付く縁起物として考えられていたためです。ちなみに、西日本では端午の節句に葛や餅を笹の葉でくるんだ「ちまき」もよく食べられます。
水無月(みなづき)
京都を中心として、1年のちょうど折り返しにあたる6月30日に、白い三角形のういろうの上に小豆をのせた水無月という和菓子を食べる習慣があります。半年間の穢れを祓い、残り半年の無病息災を願う「夏越の祓(なごしのはらえ)」という行事に基づくお菓子で、いまでも関西を中心として水無月が販売されています。三角の形は氷室に貯蔵された氷を表わしており、暑気払いの意味も込められた和菓子です。
秋の和菓子
亥の子餅(いのこもち)
亥の月(旧暦10月)の亥の日の亥の刻(午後10時頃)に食べると、万病から逃れると言われるお菓子が亥の子餅です。イノシシの子どものうり坊を表わした形になっていることが多く、三本筋の焼き印が入っていたり、きな粉をまぶして茶色い体を表現したりしているものがよく見られます。また、イノシシは陰陽五行説で水性にあたるため、火災を逃れるという思想から茶道の世界では、炉開きのお菓子として重宝されています。
冬の和菓子
花びら餅
正月の定番お菓子として重宝される花びら餅は、甘く煮たゴボウと白みその餡を半月型の餅で包んだ和菓子です。ゴボウを使うのは平安時代から続く「歯固めの儀式」と呼ばれる宮中儀式に由来し、もともと鮎の塩漬けを使っていましたが、後に簡略化されゴボウを鮎に見立てたお菓子になりました。その後、明治時代になると裏千家が初釜のときに利用することを許され、新年のお菓子として定番になっりました。 なお、表千家では白小豆を緑色に染めた餡が入った常磐饅頭(ときわまんじゅう)が正月のお菓子として広く使われています。
コメント